指導法

そろばん指導入門1 ~初歩指導時のポイント~

計算のやり方を覚えるより大切なこと
 そろばんをはじめて大切になるのは、①左手でそろばんをおさえて②右ひじを机につけない③右手はまっすぐ平行に④音は静かに。そのようなポイントを教えながら指導していくと思います。
 合成分解を含まない簡単な計算ができるようになったら、5をつくる計算、10をつくる計算などいろいろ覚えることはたくさんあるので、教える側が一番大変だと感じたりもするところですが、どんどん上達する生徒の成長に喜びを感じながら楽しいひとときだったりするのです。
 しかし、全部間違いです! 
 おや、インパクトを出すためにちょっと極端な言い方をしてしまいましたね。失礼しました。
 全部ではないです。でも指導する上で大事だと思うところがずれてしまっているかもしれません。ウチの教室の指導スタッフでもこの勘違いに気付かないで次々と進めてしまう場面を何度も見てきたので、反省も含めて書いていきます。
 合成分解ができるようになったら、と書きましたが、どのような状態になったら次の段階(5または10の合成)に進みますか?だいたいの人は、テキストを進めていって、そのような問題が出てきたら指導する、ということになってはいないでしょうか?
 まぁ、それでもほとんどの生徒はそれで問題なく進めるのかもしれません。しかしそれは結果論であって、指導者として練習内容をステップアップさせる理由が十分ではないように感じます。
 はっきり言って、出来る子(要領のいい子)はほっといても上手になります。教室に生徒がある一定数以上いると、その環境のおかげでさらに上達できる子が増えていきます。問題はそこではなく、平均の子、もしくは平均以下の学習能力しか持ち合わせていない子をどうするか、ということの方が重要です。限られた時間の中で、できない生徒に付きっきりになって一生懸命教えてあげる、それはそれで大事なことかもしれません。しかし、手をかけてあげて上手にするには限界があるということも理解する必要があります。
よくある失敗例
(授業終了20分前)~ちゃん、手がとまっているね。どれどれ、一緒にやってみようか。+8、+5、-4、あ、違う違う、4の友達は4じゃないよ、ほら、戻してあげるね。ここは4の友達の6をたすんだよ。はい、できたね。答え書いてね。次も一緒にやってみるよ。・・・よーし、1列おわったね。もう1列を自分でやってみようか。ここが終わったら今日の練習もおしまいにしようね。
(授業終了10分前)~ちゃん、わからないのかな?もうすぐ終わりの時間だよ。がんばって。+3、+9、-4、ほら、またさっきと同じ間違いだよ。ここは、こうやってこうやるの。ほら、まねしてやってみて。うん、できたね。答え書いてね。次は+5、+1、…、はーい、がんばりました。いっぱいできたねぇ。えらいねぇ。じゃあ片付けて終わりにしましょう。
 これはダメです。偉くもなんともない。いっぱいできたのではなく、いっぱいやらせただけ。ただ言われた通りに動かす「作業です。でも気持ちは分かります。テキストを進めないと保護者に示しがつかないし、最低~ページやらないと帰れないと生徒に思わせてちゃんと練習させたい。そうですね、気持ちは分かります。でもダメです。
 たとえそうやってなんとか5の合成、10の合成、大きな数への繰り上がりなど、テキストを進めて10級くらいまでやってきたとします。そこで気付くのは、1人で取り組めない、先生に頼る、すぐ諦める、など学習する姿勢が身についていないという事実です。5の合成分解でも間違えて、10の合成分解でも間違えて、複雑な繰り上がりでも間違えて、間違えて、間違えて、どこから直せばいいのやら?という状態になってしまいます。一度指導した内容について「助言」は必要です。でも考える時間まで奪っては次につながりません。
 一番心配なのは、初歩の段階でそれだけできない状態が続けば、おそらく計算することが嫌いになってしまうということ。この心理的なマイナスを後から取り戻すことはとても難しいです。
最初の段階で大切なのは、できることしかやらせない
 ここはとても大事なポイントです。別な言い方をすると「そろばんをたくさん触らせる」ことだけを重視してほしいと思います。はじめて触る道具の感触、音、大きさ、幅、強さ、色、形、とにかくたくさん触れて慣れてもらうことが最優先事項です。そのためには、先生がいなくてもいっぱいそろばんをはじいてもらえるような仕組み作りや問題の与え方を工夫する必要があります。
 例えば、111111とそろばんの端から端までおいていってもいいでしょうし、1234321とおいて1234321とひいていくことを繰り返してもいいでしょう。ウチでは4桁ずつ1~9までのいくつかのパターンをつくり5セットずつやってもらっています。
 初歩の子がさわるタッチ数をカウントしたことがありますか?実はこれだけでそれに匹敵するくらいのタッチ数になっているからバカにできません。この指ならしは先生がいなくても教室でも家でも問題集がなくでもどこでもできるので、段階に合わせてたくさんのパターンを作っておいて与えてあげると良いと思います。
 生徒が自分でできる事だけやらせることで、先生は計算の方法を指導するのではなく、姿勢や指の使い方、計算する位置、触る強さや角度等の細かい調整を行うことができるのです。これを早期に徹底できるメリットは今後の学習に大きな差となって現れます。
 計算の方法を覚えさせるのは後からいくらでもできるんです。まずは「思った通りに早く正確に玉を動かせる能力」を身に付けさせてあげてください。スポーツでも、自分のイメージ通りに体を動かせるかどうかは非常に重要な要素です。目をつぶって両手を広げてみてください。左手の先から右手の先まで一直線にしましょう。さぁ、目を開けてみて。真っ直ぐになっていましたか?